TCT JOURNAL

カフェとアート|空間の価値を変える壁画・音楽・デザイン

カフェ 開業

カフェ アートは「飾り」ではない。店の記憶をつくる空間設計

おいしいコーヒーを飲んだ店のことは忘れても、「あの壁の絵が印象的だった店」「音楽まで含めて空気が好きだった店」のことは、不思議と覚えている。

カフェにおけるアートは、壁を埋めるための装飾ではありません。絵、グラフィック、音楽、家具、照明、器。それぞれが重なり、その店で過ごした時間そのものをつくっていきます。

TEAM CAFE TOKYOが以前、WEBチーフプランナー今吉拓也とアートディレクションを手掛ける三ツ森セスナの対談で考えた「CAFEとART」。当時の言葉を手がかりに、現在の店づくりの視点から改めて掘り下げます。

いいカフェには、説明できない「空気」がある

店に入った瞬間、「なんとなく好きだ」と感じることがあります。

その感覚は、ひとつの要素だけで生まれるものではありません。壁の色、照明の温度、椅子の質感、流れている音楽、カウンターの高さ、飾られた一枚の絵。目に入るものと耳に届くものが重なり、私たちは無意識のうちにその店を判断しています。

だから、カフェ アートを考えるときに「壁に何を飾るか」だけから始めると、本質から少し離れてしまいます。先に考えるべきなのは、その店でお客様にどんな時間を過ごしてほしいのか。その答えがあって初めて、アートの役割が決まります。

静かに一人で過ごしてほしい店と、仲間と会話を楽しんでほしい店では、必要な表現は違う。アートは空間の最後に置くアクセサリーではなく、店の性格を伝える言語のひとつです。

「本物」が一枚あるだけで、空間は急に人間らしくなる

ポスターや既製品には、もちろん良さがあります。完成度が高く、空間を整えるにはとても使いやすい。

一方で、アーティストがその場所のために描いた壁画や、一点ものの作品には別の力があります。線の揺らぎ、塗料の重なり、手仕事の痕跡。その不均一さが、整いすぎた空間に人間らしさを持ち込みます。

対談の中で今吉が語っていたのは、新しい店の中に古い絵やノスタルジックな表現があると惹かれる、という感覚でした。それは単なる好みの話に見えて、店づくりでは重要です。

すべてを新品で揃えた空間は美しくても、時間の厚みが出にくいことがあります。そこに少しだけ異質なもの、誰かの手の跡が残るものが入ると、空間に物語が生まれる。人は完璧に整えられた場所だけではなく、どこかに「余白」がある場所にも居心地を感じます。

アートは、ブランドの説明をしなくても伝えてくれる

店のコンセプトを長い文章で説明しなくても、空間を見れば伝わる店があります。

アメリカンダイナーなら、タイポグラフィ、壁画、ネオンサイン、音楽、食器まで一つの文脈でつながっている。和を現代的に見せたいなら、素材、余白、光の落とし方まで含めて世界観が組み立てられている。

強いブランドは「ロゴが目立つ店」ではありません。メニューを見ても、壁を見ても、写真を一枚撮っても、同じ人格を感じる店です。

カフェ アートが機能するのは、この人格を視覚的に伝えられるからです。壁画ひとつでも、店名を大きく描く必要はない。その店が何を好きで、どんな文化に影響を受け、誰に来てほしいのか。それが伝われば、アートは十分にブランドの仕事をしています。

SNS時代だからこそ「写真を撮らせる」だけでは弱い

壁画やフォトスポットをつくる目的として「SNS映え」が語られることがあります。それ自体は間違いではありません。ただ、撮影されることだけを目的にすると、空間はすぐに消費されます。

本当に強いのは、写真を撮りたくなる理由が店の世界観とつながっていることです。

料理を置いたときに背景として美しい壁。友人と座ったときに自然と画になる席。昼と夜で表情が変わる照明。その店でしか撮れない写真には、その店でしか過ごせない時間が写っています。

アートを集客装置として考えるなら、「目立つものをつくる」より「店の体験の一部になるものをつくる」。その方が、結果として記憶にもSNSにも残ります。

絵だけではない。音楽も椅子も器も、すべて空間の表現になる

三ツ森は対談の中で、アートを「表現方法のひとつ」と捉えていました。

この考え方はカフェづくりとよく似ています。店は壁画だけで完成しません。音楽が変われば会話のテンポが変わり、椅子が変われば滞在時間が変わる。器が変われば同じ料理でも印象が変わります。

つまり、空間を構成する一つひとつの選択が、その店からお客様へのメッセージです。

高価な家具や有名アーティストの作品を入れれば良いわけでもありません。大切なのは一貫性です。1,000円の古い椅子でも、その店の物語に合っていれば価値がある。反対に、どれだけ高価でも文脈から外れれば、ただ置かれているだけに見えます。

カフェに壁画を入れるなら、最初に「何を描くか」を決めない

壁画制作の相談で最初に考えたいのは、絵柄ではありません。

まず整理したいのは、店のコンセプト、客層、滞在時間、商品、写真を撮られる方向、外からの見え方です。壁画を見る距離が50センチなのか5メートルなのかでも、必要な線の太さや情報量は変わります。

さらに飲食店では、テーブルや厨房設備、照明、サインとの関係も無視できません。完成した内装の空いている壁に絵を足すより、設計段階からアートの位置を決めた方が空間全体はまとまりやすくなります。

「何を描くか」より先に「この絵が店の中で何をするのか」を決める。ここが、作品としての絵と、店舗空間のためのアートディレクションの大きな違いです。

店主の想いを、そのまま絵にしない

店舗をつくる人には、それぞれ強い想いがあります。

ただ、その想いを全部壁に描けば良いわけではありません。店主が伝えたいことと、お客様が感じ取れることの間には距離があります。

アートディレクションの仕事は、その距離を翻訳することです。

言葉では説明しにくい「少し懐かしい」「海外の路地裏っぽい」「子どもっぽくない遊び心」といった感覚を、色、線、素材、余白に置き換える。店主の頭の中にあるイメージをそのまま再現するのではなく、お客様が空間として体験できる形へ変換することが必要です。

良い店は、帰ったあとにも一部分が残る

カフェを出たあと、何を覚えているでしょうか。

コーヒーの味かもしれない。スタッフとの会話かもしれない。窓から差し込んだ夕方の光かもしれない。壁に描かれていた、名前も知らない絵かもしれません。

店づくりの面白さは、商品だけではコントロールできない記憶まで設計できることにあります。

飲食店だから、料理がおいしいことは大前提です。その上で「ここで食べる意味」をつくるのが空間です。そして、その空間に店独自の感情や文化を与える方法のひとつがアートです。

カフェ アートは、売上表に直接一行で現れるものではありません。それでも、また来たい、誰かに教えたい、この店が好きだという感情を積み重ねる力があります。店がブランドになっていくとき、その力は決して小さくありません。

アートを入れることが、必ずしも正解ではない

ここまでアートの力について書いてきましたが、もう一つ大切なことがあります。すべてのカフェに大きな壁画や強いグラフィックが必要なわけではありません。

たとえば、静けさそのものが魅力の喫茶店に巨大なウォールアートを入れれば、店が本来持っていた余韻を壊すことがあります。素材の美しさを見せたい空間なら、何も描かない壁が最も豊かな表現になることもある。アートディレクションとは、作品を増やす仕事ではなく、必要なものと必要でないものを判断する仕事でもあります。

大切なのは「アートのあるカフェにしたい」から始めるのではなく、「この店らしい時間をどうつくるか」から考えることです。その結果として壁画が必要なら描く。写真が一枚あれば十分なら、それ以上は足さない。何も置かないことに意味があるなら、余白を残す。その判断まで含めてカフェ アートだとTEAM CAFE TOKYOは考えています。

10年後にも残る店は、流行より「その店らしさ」が強い

店舗デザインには、その時代ごとの流行があります。色、素材、家具、写真の撮り方まで、数年単位で空気は変わっていきます。

流行を知ることは大切です。しかし、流行だけでつくった店は、流行が終わった瞬間に古く見える危険もあります。

長く記憶される店には、少し癖があります。万人に好かれるようにすべてを平均化するのではなく、「この店はこれが好きなんだ」と伝わるものがある。古いレコード、旅先で買ったポスター、作家に描いてもらった壁、長年使い込まれたテーブル。その一つひとつが、時間とともに店の履歴になっていきます。

開業時に完成した空間を守り続ける必要もありません。スタッフが増え、常連客が増え、店で起きた出来事が積み重なることで、空間は少しずつ変わっていく。その変化を許容できる店は強いと思います。

カフェ アートの価値は、完成した瞬間の美しさだけでは測れません。5年後、10年後、その作品が店の記憶と結びついているか。そこで写真を撮った人、待ち合わせをした人、初めてデートをした人の記憶の背景になっているか。そこまで含めて考えると、店舗のアートは単なる内装費ではなく、ブランドの時間を蓄積する装置になります。

「また来たい」をつくるのは、スペックではなく感情

カフェを数字で見ると、席数、客単価、回転率、原価率、滞在時間といった指標が並びます。運営する以上、どれも無視できません。

しかし、お客様が再来店するときに「この店は回転率が優秀だから行こう」と考えることはありません。

またあの席に座りたい。あの音楽が流れる空間でコーヒーを飲みたい。友人を連れてあの壁を見せたい。そうした感情が再来店の理由になります。

数字をつくるのはオペレーションですが、数字が生まれる前には人の感情があります。空間設計やアートの仕事は、その感情を設計することでもあります。

だからこそ、カフェづくりでは「効率」と「余白」の両方が必要です。厨房は徹底して効率化する。一方、客席には少し遠回りしたくなる景色を残す。提供速度は上げても、過ごす時間まで急かさない。そうした相反する要素を一つの店の中で成立させることが、飲食空間をつくる面白さです。

TEAM CAFE TOKYOが考える「CAFE × ART」

TEAM CAFE TOKYOが考えるカフェづくりは、料理だけ、内装だけ、広告だけを切り離すものではありません。カフェ アートも、その全体設計の中にあるべきものです。

商品、オペレーション、空間、音楽、グラフィック、そしてそこで働く人まで含めて、一つの体験として設計する。その中でアートは、店の考え方を最も自由に表現できる領域です。

昔の対談で語られた「場の空気を変える」というアートの力は、今も変わりません。

むしろ、どの店もきれいな写真を発信できる時代になったからこそ、画面越しではコピーできない「その場所にしかないもの」の価値は高くなっています。

次にカフェへ入ったときは、料理やコーヒーだけでなく、壁の絵、流れている音楽、椅子、照明、器にも少し目を向けてみてください。そこには、店をつくった人が言葉にしなかったメッセージが残っているかもしれません。

カフェ・飲食店の企画、ブランドづくり、空間を含めた店舗開発についてはTeam Cafe Tokyoのサービスもご覧ください。

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