TOKYO CAFE 物語!

朝八時、六畳一間の部屋にアラームの音が鳴り響く。

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昨日眠りについたのは、たしか3時を過ぎた頃だったよな、なんて思いながら悟は寝ぼけた身体でアラームの音を止めた。昨日は、先日のカフェの取材の原稿を、締め切りギリギリで仕上げていて、眠るのが遅くなってしまっていた。

今日の取材は、十時に高円寺。家からも近いし、まだ少し時間もある。たしか、ラテアートが可愛いって話題になっていて、ガトーショコラが美味しい店だったっけ……もうちょっと、あとちょっとだけ寝てても大丈夫だよな……?布団の暖かな誘惑に耐えきれず、悟は目を閉じてしまった。

ピンポーン。部屋のチャイムが鳴った。んん…もう少しだけ、あと五分だけ…。ピンポーン。うるさいな。こっちは気持ちよく寝てる、のに……あれ。その瞬間、悟は飛び起きた。今何時だ!?時計を見る。九時三十分、ヤバイ!!急いで着替えて、歯を磨いて家を出た。

駅まで全力で走り、なんとか間に合った。こんなギリギリな生活、もう辞めなきゃな。俺、昔からこういうところ全然変わってないな。はぁ。そんなことを考えながら歩いていると、今日の取材現場についた。

「cafe American classic」内装は女子受けの良さそうなアンティーク調。リクエストすると何でも描いてもらえるラテアートが話題になっていて、Instagramにアップする女子が急増中。ガトーショコラも人気。

お店の情報を頭の中で繰り返す。よし、今日も大丈夫だ。そう言い聞かせて、店に入った。
「いらっしゃいませ。」

「すみません、10時から取材させていただく予定の、佐藤と申します。」

「取材の方ですね!お待ちしておりました。こちらへどうぞ?」

そう言うと、店員は窓際の席へ悟を案内した。

「今、店長呼んできますね。」

「ありがとうございます。」

ふと、壁にかかってる時計を見た。9時58分。ギリギリだ。店長、おっかない人だったら怒られるかもな……。なんて考えていると、奥から店長らしき人が近づいてきた。立ち上がって軽く会釈をすると、店長らしき人が驚いた表情を見せた。ん?この人、どこかで……。
その瞬間、体の中を電流が駆け抜けた。そして、恐る恐る聞いてみる。

「美希…?」

「うそ、悟くん?」

「うっそ。やばい。え、何年ぶり?」

「高校以来だから、8年くらい?」

「だよな、え、すっげー。超びっくり。」

「私もびっくりだよ。メールで名前見て、まさかとは思ったんだけど、そのまさかだった。あ、座って座って。」

「おう、ありがとう。」

美希。彼女は高校の同級生。そして、俺の初めての彼女だった人。別れた理由は、今思えば些細なことだった。そんな彼女と、今日ここで再会することになるとは。

「はい。こちらがガトーショコラと、カフェモカです。」

「ありがと。あ、これ俺の顔?」

「ふふ、そう。さっきのバイトの子が作ってくれたの。」

「すっげー。そっくり。写真撮っていい?」

「もちろん。素敵な記事、よろしくお願いします。」

「うん。じゃあまず、このお店のコンセプトについてなんだけどーー。」

「よし。じゃあ最後の質問。これは、あんま記事と関係かいかもなんだけど、美希って、今店長なの?」

「一応ね。最近オーナーに任せてもらって、まだダメダメなんだけど。でも、店長として頑張って経験積んで、いつか自分のお店出したいなって思って、今頑張ってるんだ。」

「…そうなんだ。すごいな。」

「そんなことないよ。」

「いや、美希は昔から努力家だったもんな。」

「ありがとう。」

「俺なんか、未だにバイトでライターやっててさ。生活も色々ギリギリで、嫌になっちゃうよ。ハハッ。」

「……。実は私、悟くんが書いた記事、毎月読んでるんだ。」

「え?」

「ほら、カフェの雑誌に、毎月記事載ってるじゃない?もちろん読んでる時は、私の知ってる悟くんが書いたって知らなかったけど。面白くて素敵な記事だなって、いつも楽しみにしてるんだよ。佐藤悟さんの記事。」

「……ありがとう。」

柄にもなく涙がこみ上げてきた。こんな俺の記事を、楽しみにしてくれてる人がいる。認めてくれる人がいる。明日からも、また頑張れる気がした。

ccb

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